【相談】親が認知症になる前に相続の準備をしたい!どこから始めたらよいか

離れて暮らす実の父(78)に、少し認知症が始まっているように感じています。判断力がしっかりとあるうちに、土地や財産をどうするか決めておきたいのですが、自分がなかなか時間を作れないため、効率的に準備したいと考えています。まず専門家の話を聞いて準備していきたいのですが、誰に相談し、何をすべきでしょうか。

まずは税理士? それとも弁護士? 一体誰に相談すればいいの?

―相続について専門家のアドバイスが欲しい。そう思った場合、知識がない方は誰に相談したら良いのか分からないものです。最近では保険の外交員やFPさんなどでも終活の相談に乗れると謳う方もいますが、各専門家のメリットとデメリットを教えていただきました。

NEXTi法律会計事務所、高久田祐税理士(左)と、萩生田彩弁護士(右)

【行政書士】

萩生田:簡単なことであれば、行政書士に相談してもいいかもしれません。ただ、行政書士の専門は、許認可や入管関係の手続などをおこなうことです。相続を打ち出している行政書士の方もいらっしゃいますが、問題が争いごとに発展すると、行政書士は法令上取り扱うことができなくなり、私たち弁護士に引き継がないといけません。相続にまつわる法的な手続を見据えた場合、行政書士の方に相談するのが適切かというと、そうではない場合もあり注意が必要です。

高久田:もともと民事信託の分野に行政書士の方が進出してきた結果、相続=行政書士というイメージを持つ方も増えたということも背景にあります。ですが行政書士が委託を受けて対応した結果、専門性が足りずどうしようもなくなり弁護士や税理士の元に話が来ることはよくありますから、難易度の高い手続きをお任せするのは、弁護士がいいかもしれませんね。

【司法書士】

萩生田:司法書士の方の専門は民事法、特に登記分野です。弁護士が法律全般の専門であるのに対し、司法書士の専門は一部であって、弁護士ほどの網羅性はありません。

先程行政書士よりは弁護士とお伝えしましたが、それはもともと相続は本来の専門外であることに加え、法律全般のプロである弁護士から見ると、行政書士の作った遺産分割協議書や遺言書には、問題があるものも多いからです。司法書士にも当てはまることが稀にあります。

また、私たち弁護士は、争いになった場合に裁判所でどのような判断がなされるかを先回りして解決方法を提案できるのに対し、遺産分割調停を担当することができない司法書士には、そういった意味でも限界があります。

もちろん、司法書士は登記分野の専門家ですから、最終的に解決した後には登記を司法書士にお願いしています。

高久田:司法書士の方が作った書類も、税務的に不足しているなと感じるものもあります。視点が違うのでもちろんそうなんですけどね。

萩生田:もちろん、私たちも事業継承や複雑な相続の登記などを行う場合は、司法書士の方と一緒に手続きをおこないます。しかし、司法書士は相続のプロではなく登記のプロですから、相続に関しては少し注意が必要です。

―行政書士と司法書士。法律から遠い生活をしていると、その違いは分からないものです。

それぞれ得意とする分野は異なりますが、行政書士は行政に提出する書類を代行しておこなえる専門家です。ビザ申請や許認可手続、車庫証明などの自動車手続が行政書士のおこなえる主な業務です。

一方司法書士は登記の専門家です。登記の専門家なので、会社設立などの際には司法書士にお願いすることになります。

しかし相続面ではできないことも多々あります。例えば「遺産分割調停」をおこなう場合、書類の作成はできても、司法書士が裁判の代理人になることはできません。一方弁護士であれば、書類の作成も含め裁判の代理人にもなることができます。この違いはかなり大きなものです。

このように、相続問題が裁判に発展する、あるいはその可能性を見据えて準備をおこなう必要がある場合、司法書士も行政書士も対応することは難しくなります。

結論として、相続問題に悩まれた際は、弁護士や税理士に依頼をした方が、適切なケアが無理や無駄がなくスムーズにおこなえるのです。

【終活アドバイザー】

萩生田:もし、本気で相続について悩まれており、具体的なアクションを検討されているのであれば、終活アドバイザーは民間資格ですから相談することは避けていただきたいです。弁護士、税理士、行政書士、司法書士は国家資格であり、それぞれが所属している会にある規律の上で業務を行っています。

つまり、規律違反などを起こせば、資格を剥奪される可能性がある中で依頼者に向き合っています。一方で終活アドバイザーなど民間資格の場合、規律などはありません。“相続などの勉強を一定時間おこなっている”ということが何となく証明されているだけですので、誤ったアドバイスや対応をしても責任がない方々なんです。

実際にとんでもないアドバイスをおこなっている事案にも接しています。

高久田:弁護士、税理士、行政書士、司法書士は「職務上請求」といって、依頼者との委任関係があれば、戸籍取得などがおこなえます。

終活アドバイザーは民間資格なので、法的な手続が何もおこなえません。

「手続の手伝いができます」と謳う方もいますが、それは遺言書やエンディングノートのちょっとしたアドバイスなどができるというだけで、本当の意味での「お手伝い=法的な手続代行」は、何もできないことは覚えておいてください。

萩生田:少し厳しい表現になりましたが、最初から弁護士のような専門家を選んでも良いと思っています。ちゃんとした専門家にしっかりと最初から話を聞きたいのか、雑談のように気軽に相続について知識を味見したいのか。後者であれば、たしかに法律家でなくても事足りるかもしれません。皆さんのご状況を踏まえ、適切な相談相手を選ばれるのが良いでしょう。

両親の認知症が始まっている場合にできること

―今回のご相談者の場合、実父の認知症が少し始まっており、判断力に若干の不安を覚える状況です。ご相談者の中には、両親の認知症がいよいよ進み、終活全体を考えた結果、相続に対する準備を始めたという方もいます。

両親にすでに正常な判断力が失われている場合、どのような対応が可能なのでしょう。

萩生田:認知症の程度によって、やれる部分は変わってきます。今回のケースのような、認知症が軽度で日常判断はまだ良いけど、大切な判断はそろそろ心配という場合は、「民事信託」も検討されるのが良いでしょう。

―民事信託とはごく簡単に言えば、財産を持っている人(今回の場合実父)が信頼できる家族等に、財産の管理や売却を任せる制度です。

認知症が進んだ場合、当人の判断能力は低下し、当然ながら正しい判断の元で財産整理をおこなうのは難しくなります。そうなった場合、例えば財産を売却して施設の入居費用に当てようと家族が考えても、所有権を持った人(実父)しか財産を売却することができないので、家族はなにもできません。こういったトラブルを避ける手段が民事信託です。

萩生田:認知症が本格的に進んでしまうと、もう民事信託は組めなくなります。そのため、「認知症が始まったかも?」という段階で、家族で話し合い、組んでおくのが良いでしょう。

民事信託は個人間の契約になりますが、個人間でおこなうのは困難ですから、まずは弁護士や税理士に相談していただければと思います。

高久田:民事信託を契約する際、場合によっては税理士が入らずに信託を組むのは危険なケースがあります。例えばアパートなどを所有していた場合、税金計算が発生し管理も大変です。場合によっては、思わぬ税金を払う羽目になったというケースもあるようです。そのため、弁護士と税理士の両名でサポートに入りつつ、民事信託を組んでいくと、より安心感が高まります。

今回の場合は相談者に民事信託を進めましたが、民事信託は相続対策というより、亡くなる前やその後の承継のための対策であり、設計次第では亡くなってからの対策にも対応できます。

例えば、実子がいないご夫婦がいたとして、夫は亡くなったら財産は妻にあげたいと考えているが、妻が亡くなったら妻に渡ったその財産は実兄の息子(甥)に全額渡したいと考えた場合です。このケースは遺言書では対応しきれません。遺言書だけだと、妻の死後は基本的には妻の兄弟姉妹に遺産が渡ってしまいます。

遺言書が対応できるのは「誰に何を残すか」の遺言者からの直接的な希望にとどまります。今回のケースでいえば、「夫が委託者、妻が受託者。妻が死んだら甥っ子に資産が移動して民事信託は終了」といった内容の契約を結べばいいのです。

―家族ごとに内容を変えながら組むことができる民事信託。「財産を残す=遺言書を書くor生前贈与」、というイメージを持っている方も多いですが、場合によっては民事信託の方が自分も家族も幸せにすごせる場合もあります。

まずは専門家に相談の元、両親や家族、そして自分はどうしたいか、どうしていくべきかを具体的に見ていきましょう。